大手企業や有名な企業の中には上場している企業も多いと思いますが、中にはあえて上場していない企業も多くあります。
ではその判断基準にはどのようなものがあるのでしょうか。
今回は上場(IPO)をするメリットとデメリット、株式公開の条件についてご紹介いたします。
目次
上場(IPO)とは
上場とは「株式や債券などの有価証券や商品先物取引の対象となる商品を取引所(市場)において売買可能にすること」で、新規株式公開(IPO:Initial Public Offeringの頭文字の略称)と同じ意味です。
一般的には株式会社の株式が上場する意味合いで利用されることが多いですが、債券やREIT、ETFなど会社の株式以外にも上場している商品は多く存在します。
上場企業の数はどれくらいある?
上場企業の数はどれくらいあるかご存知でしょうか。
新規上場する企業もあれば上場廃止になる企業もありますので多少の増減はありますが、4,000社以上が上場しています(重複上場含む)。
内訳としては日本取引所グループへの上場企業がダントツで多く、その他に地方の証券取引所などを加えた数値は以下のグラフの通りになります(2021年12月時点)。
市場名 | 上場企業数 |
---|---|
東証1部 | 2,183 |
東証2部 | 473 |
マザーズ | 424 |
JASDAQスタンダード | 658 |
JASDAQグロース | 37 |
札証本則市場 | 48 |
アンビシャス | 10 |
名証1部 | 182 |
名証2部 | 81 |
セントレックス | 14 |
福証本則市場 | 93 |
福証新興市場 | 16 |
合計 | 4,219 |
名古屋証券取引所に単独上場しているのは277社中の62社、札幌証券取引に単独上場しているのは58社中の16社、福岡証券取引所に単独上場しているのは109社中の27社となっております。
珍しいところでいうと、RIZAPグループが札幌証券取引所の新興市場であるアンビシャスにのみ単独上場していることが挙げられるでしょう。
日本の企業数は300万社とも言われていますので、99%以上の企業は未上場ということになります。
上場のメリット
上述のように一握りの企業しか上場をしていないこともあり、上場を目指している企業は多いですが、メリットだけでなくデメリットも存在します。
それぞれについて見ていきましょう。
資金調達ができる
最大のメリットは市場から資金調達力ができるということでしょう。
株式会社は投資家に株式を購入してもらうか債権を発行して資金調達を行うか、銀行などの金融機関から借入を行って資金調達を行うことが一般的です。
しかし、株式を購入してもらう場合には上場しているかしていないかで換金性と金額の透明性に大きな違いがあることから、資金調達のしやすさが異なっています。
上場企業の株式は証券取引所を通じて投資家が自由に購入できるのに対して、未上場企業の株式は当事者間で企業から直接購入する必要があるためです。
上場すると自分で株主を探す必要がなく、市場から大きな資金を調達できるようになるため、資金調達力が向上します。
ただ、もちろん業績や株価が一定以上の評価を得ていないと上場していても思うような金額を調達できないケースも見受けられます。
知名度向上による売上アップや優秀な人材確保の可能性
2つ目のメリットは知名度向上による売上アップや優秀な人材確保の可能性です。
上場企業は情報公開を広く行うため知名度が高くなりますし、資金に余裕ができて広告を多く出稿している場合も多いです。
そうすることで企業や求職者からの認知度も高くなり、売上や人材確保がしやすくなることにつながる可能性があります。
管理体制の充実
3つ目のメリットは管理体制が充実することです。
上場を行って維持していくためには証券取引所の審査やチェックに通らなければなりません。
例えば、審査には「企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」という項目があります。
この項目をクリアするためには、株主へ正しい財務報告を行うための内部統制の構築や、株主総会や取締役会の運用の徹底、予算と実績が乖離しないための予実管理体制などを構築していく必要があります。
上場のデメリット
上場にはメリットもありますが、デメリットも存在します。
コストがかかる
上場をするためにも維持していくためにもコストがかかることはデメリットの一つです。
例えば会社の規模にもよりますが、以下のようなコストが考えられます。
【上場前(年間)】
監査法人への支払い:500万円~2,000万円程度
証券会社への支払い:200万円~500万円程度
株式事務代行機関への支払い:400万円前後
証券印刷会社への支払い:500万円程度
コンサルティング会社への支払い:500万円~1,500万円程度(必要に応じて)
その他管理体制を拡充するための人件費 など
【上場時】
上場審査料:東証一部・二部は400万円、マザーズ・ジャスダック市場は200万円
登録免除料:資本組入額×7/1,000
証券会社へ成功報酬の支払い:0万円~500万円程度 など
【上場後(年間)】
年間上場料:48万円~456万円(時価総額により異なる)
監査法人への支払い:1000万円~2000万円程度
株式事務代行機関への支払い:400万円前後
証券印刷会社への支払い:500万円程度
株主総会の運営費用 など
上場すると投資家に向けて有価証券報告書や、四半期報告書などの情報を適時開示することも求められます。
参考:https://biz.moneyforward.com/ipo/blog/182/
株主への対応、株価対策が必要
上場すると不特定多数の人たちが企業の株主になるため、株主総会などで経営方針や業務内容に関して企業に意見することも可能です。
ただし、株主は必ずしも企業にとって好意的とは限りません。
業績や株価が良い場合であれば友好的な株主が多くなりやすいと思いますが、悪くなった場合には経営や株価対策に関する注文をする、「物言う株主」への対策も必要です。
過去には取締役の就任が否決されて社長を変えた方が良いと言った投票になったりしたこともありました。
買収されるリスクや買収対策コストが生じる
上場すると資金があれば誰でも株式を購入できるようになることから、買収されるリスクが常にあります。
買収には双方が納得した上での友好的なM&Aも多いですが、経営権を奪う目的で仕掛けられる「敵対的買収」も考えられます。
例えばライブドア社がフジテレビ社の株式を多く持っていたニッポン放送社の株式が割安になっていたことに目をつけて買収をしようとしたことなどが有名です。
基本的には業績を良くして株価を高く保ち、企業価値を高めていくのが一番の方法ではありますが、買収防衛策を取らなくてはいけない状況になった場合には多くのコストが発生します。
上場するための条件
上場するためには多額の費用を用意するほか、厳しい審査に通らなければなりません。
上々審査には以下の2つの基準・要件があります。
実質審査基準
企業の姿勢や体制などが上場できる基準を超えているかを審査するものです。
コーポレートガバナンスと呼ばれているもので、管理体制は十分か、残業時間は多すぎないか、取引先に無理な負担を強いていないかといったことなどが細かくチェックされます。
形式要件
2つ目が株主数や時価総額など具体的な数字の審査です。
ちなみに上場は黒字でなくても可能で、近年ではITベンチャーを中心に赤字での上場企業も増えています。
上記2点をクリアできれば、上場することができます。
上場するために必要なこと
上場するためにやるべきことについて見ていきましょう。
ショートレビューを受ける
まずは監査法人によるショートレビューを受けましょう。
ショートレビューとは予備調査や短期調査とも呼ばれ、監査法人が上場に向けて企業の課題を洗い出す作業です。
ショートレビューを受けることで、会社の現状とともに上場までにすべきことや、ロードマップが見えてきます。
上場までのスケジュールを加味すると、ショートレビューは上場目標年度の3期以上前には受けておきましょう。
・コーポレート・ガバナンスや組織・規程の整備などの経営管理制度
・中期経営計画や予算、月次決算制度などの利益管理制度
・関連当事者などとの取引に関する考え方等
資本政策を考える
上場を検討した際には資本政策を早めにスタートするのがおすすめです。
資本政策とは、株主構成や発行済株式数などを踏まえて、どのように資金調達をするのか、その計画のことです。
多くの場合は経営陣と主幹事証券会社、会計事務所、VCや取引銀行などからサポートを受けながら立案・実行していきます。
・資金調達の方法:どのような方法で誰から、いくら資金を調達するのか
・株式構成:誰にどの程度株式を保有してもらうか、いくらストックオプションを与えるか
・創業者利益:創業者がどのタイミングでどれくらい株式を売却するのか
・事業承継:事業承継を行うための対策はどうするのか
資本政策は、上場予定の3年前頃より立案し、実行していきましょう。
上場のメリットとデメリットを理解しておこう
上場は企業にとっても従業員にとっても目標の一つとしている場合も多く、株主からすると利益を見込めることもあるため歓迎されやすいと思います。
一方で上場維持コストや不特定多数の株主への対応などデメリットもあります。
これらメリット・デメリットを勘案した上で、上場を目指すかどうか検討してみましょう。
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